日本でも普及するか、「デマンドレスポンス」
日本経済新聞より
詳しくはここから
原子力発電所の設備利用率(稼働率)が約15%(2011年12月段階)と、過去最低の水準を次々に更新しており、今後の電力不足が深刻化している。そうした中で、日本でも「デマンドレスポンス(需要応答)」を導入していこうという機運が高まっている。
デマンドレスポンスとは、需給逼迫(ひっぱく)の予想されるピーク時間帯に電力価格が高くなるようにダイナミック(動的)に料金を設定したり、節電分だけポイントを還元するなどのサービスを提供することによって、ピーク需要の削減を促進しようというものだ。
電力会社は、年間数十時間程度のピーク需要に対応するために巨額の設備投資をしている。このピーク需要を確実に削減できれば、設備投資を抑制できる。とりわけ、投資余力のない米国の電力会社がデマンドレスポンスの検討を活発に進めている。
これに対して日本では、デマンドレスポンスの必要性はそれほど高くないと考えられてきた。震災前までは、ピーク需要をカバーして余りある供給力を電力会社が備えていたからである。ところが、震災後に電力供給不足が深刻化し、さらに電力料金が上昇する方向になってきたことから、導入機運が高まってきたのである。
デマンドレスポンスを実施するには、各戸に時間帯別の電力消費量を計測できるスマートメーターなどを導入し、それによって電力会社の管内の状況を把握し、各戸にダイナミックな料金などを通知していけばよい。しかし、これには多額の設備投資が必要で、導入までに時間がかかる。そこで、このところ進んでいるのが、系統電力網とは隔離された「閉鎖系」でデマンドレスポンスを先行導入したり、実証実験を行ったりという動きである。
■PPSからの一括受電サービスの一環として実施
その一つの方法が、マンション業者などが、PPS(特定規模電気事業者)から高圧電力を一括受電し、マンション各戸に電力会社より安価に電力を供給するサービスの一環として、デマンドレスポンスを導入することである。
例えばNTTファシリティーズは、2006年からPPSのエネットから高圧電力を一括受電し、マンション各戸に電力会社より5%安く配電するサービスを実施しているが、2011年からこれらの顧客向けに省エネを支援するサービス「EnneVision」を提供し始めた。同サービスの一環として、電力需要のピーク時に節電した分だけポイント還元するデマンドレスポンスを始めている。具体的には、エネットが翌日の電力需要のピーク時間帯をメールで通知し、この時間帯に顧客が前日に比べて1kWh節電するごとに20ポイント(20円相当)を付与する。
同社は、「EnneVision」を2011年12月に開催された環境展示会「エコプロダクツ2011」(東京ビッグサイト)でアピールしていた(写真)。説明員によると、これまでに一括受電サービスを受けている1万2000世帯のうち、2011年から新規加入した世帯を中心に1200世帯が「EnneVision」の利用を開始した。「電力不足の影響もあって関心は高い」と言う。
NTTファシリティーズがマンション向けに提供している一括受電および省エネサービス「EnneVision」のデモンストレーション。「エコプロダクツ2011」(2011年12月15~17日、東京ビッグサイト)にて。(写真:日経BPクリーンテック研究所)
「EnneVision」では、デマンドレスポンスサービスのほか、IT(情報技術)を活用した「見える化サービス」や、時間帯別料金サービスも提供している。NTTファシリティーズとしては、「さらにサービスメニューを拡大していきたい」考えだ。
■スマートシティプロジェクトの中でもスタート
一方、系統電力網から切り離されたスマートシティプロジェクトの中で、デマンドレスポンスの実施を試みる例も出てきた。
経済産業省主導で、全国4地域で進んでいるプロジェクト「次世代エネルギー・社会システム実証」のうち、北九州市のプロジェクトでは、新日本製鉄が出資した天然ガス発電所である「東田コジェネ」を集中電源と見立てて、同社が持つ自営線を使って各戸に電力を供給することによって、電力の需給状況に応じて電力料金を柔軟に変える「ダイナミック・プライシング」の実証実験を検討、2012年4月にスタートさせる。
計画では、地域内の家庭200戸と、700の事務所を対象に、翌日の電力予測に基づいて30分単位で電力料金を通知する。需要が大きい時には高い料金を設定することで消費者の行動を促し、これによって電力をどの程度抑制できるかを検証する。
「次世代エネルギー・社会システム実証」のうち、横浜市のプロジェクトでは、国内で初めてオフィスビル向けのデマンドレスポンスの実証事業を開始する。2011年12月に東芝、丸紅、三井不動産、三菱地所の4社が発表した。
具体的には、各社が保有する「みなとみらいグランドセントラルタワー」「横浜三井ビルディング」「横浜ランドマークタワー」の各ビルを統合的に管理するBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入する。地域レベルのCEMS(地域エネルギーマネジメントシステム)からの電力エネルギーの需要管理指令に基づき、各ビルの電力使用状況に応じて使用量を割り振る仕組みを検討するという。
■「日本版デマンドレスポンス」の議論を
こうした動きの先には、電力会社管内でいかに本格的なデマンドレスポンスを推進するかという課題が控えている。一つの突破口になりそうなのが、東京電力管内でスマートメーターの全面導入が進められていることだ。2012年1月22日付の日本経済新聞の報道で明らかになったところによると、東京電力は更新期を迎える電力計から順次スマートメーターに置き換え、2018年度までに約1700万世帯に全面導入する。
これまで日本では、2010年6月に発表された改定エネルギー基本計画で、「2020年代の可能な限り早い時期に原則全ての需要家にスマートメーターを導入する」という方針のもと、東京電力は「2010年末から2~3年かけて約9万戸を対象にした実証実験を行う」としていたが、全面導入の意向を示し、時期を明らかにした意味は大きい。
日本の電力会社がこれまでスマートメーターを導入してきた第1の目的は、検針の自動化だったが、全面導入決定の背景には今後深刻化する電力不足、電力料金高騰を見据えて、デマンドレスポンスなどの省エネサービスを展開するためのツールにしようとのもくろみがある。デマンドレスポンスの実施には必ずしもスマートメーターが必須というわけではないが、米国ではスマートメーターの双方向通信機能を活用したデマンドレスポンスの導入が活発化し、効果も見え始めたことが影響していると思われる。
今後、一括受電サービスの一環としての閉鎖系デマンドレスポンスや、実証プロジェクト内で行われている実験データが蓄積されていく。このデータによって消費者行動などを分析し、さらに今後の電力供給状況、電力制度の改革の行方を踏まえて、日本版のデマンドレスポンスのあり方を議論していく必要があるだろう。
iPhoneからの投稿
日本経済新聞より
詳しくはここから
原子力発電所の設備利用率(稼働率)が約15%(2011年12月段階)と、過去最低の水準を次々に更新しており、今後の電力不足が深刻化している。そうした中で、日本でも「デマンドレスポンス(需要応答)」を導入していこうという機運が高まっている。
デマンドレスポンスとは、需給逼迫(ひっぱく)の予想されるピーク時間帯に電力価格が高くなるようにダイナミック(動的)に料金を設定したり、節電分だけポイントを還元するなどのサービスを提供することによって、ピーク需要の削減を促進しようというものだ。
電力会社は、年間数十時間程度のピーク需要に対応するために巨額の設備投資をしている。このピーク需要を確実に削減できれば、設備投資を抑制できる。とりわけ、投資余力のない米国の電力会社がデマンドレスポンスの検討を活発に進めている。
これに対して日本では、デマンドレスポンスの必要性はそれほど高くないと考えられてきた。震災前までは、ピーク需要をカバーして余りある供給力を電力会社が備えていたからである。ところが、震災後に電力供給不足が深刻化し、さらに電力料金が上昇する方向になってきたことから、導入機運が高まってきたのである。
デマンドレスポンスを実施するには、各戸に時間帯別の電力消費量を計測できるスマートメーターなどを導入し、それによって電力会社の管内の状況を把握し、各戸にダイナミックな料金などを通知していけばよい。しかし、これには多額の設備投資が必要で、導入までに時間がかかる。そこで、このところ進んでいるのが、系統電力網とは隔離された「閉鎖系」でデマンドレスポンスを先行導入したり、実証実験を行ったりという動きである。
■PPSからの一括受電サービスの一環として実施
その一つの方法が、マンション業者などが、PPS(特定規模電気事業者)から高圧電力を一括受電し、マンション各戸に電力会社より安価に電力を供給するサービスの一環として、デマンドレスポンスを導入することである。
例えばNTTファシリティーズは、2006年からPPSのエネットから高圧電力を一括受電し、マンション各戸に電力会社より5%安く配電するサービスを実施しているが、2011年からこれらの顧客向けに省エネを支援するサービス「EnneVision」を提供し始めた。同サービスの一環として、電力需要のピーク時に節電した分だけポイント還元するデマンドレスポンスを始めている。具体的には、エネットが翌日の電力需要のピーク時間帯をメールで通知し、この時間帯に顧客が前日に比べて1kWh節電するごとに20ポイント(20円相当)を付与する。
同社は、「EnneVision」を2011年12月に開催された環境展示会「エコプロダクツ2011」(東京ビッグサイト)でアピールしていた(写真)。説明員によると、これまでに一括受電サービスを受けている1万2000世帯のうち、2011年から新規加入した世帯を中心に1200世帯が「EnneVision」の利用を開始した。「電力不足の影響もあって関心は高い」と言う。
NTTファシリティーズがマンション向けに提供している一括受電および省エネサービス「EnneVision」のデモンストレーション。「エコプロダクツ2011」(2011年12月15~17日、東京ビッグサイト)にて。(写真:日経BPクリーンテック研究所)
「EnneVision」では、デマンドレスポンスサービスのほか、IT(情報技術)を活用した「見える化サービス」や、時間帯別料金サービスも提供している。NTTファシリティーズとしては、「さらにサービスメニューを拡大していきたい」考えだ。
■スマートシティプロジェクトの中でもスタート
一方、系統電力網から切り離されたスマートシティプロジェクトの中で、デマンドレスポンスの実施を試みる例も出てきた。
経済産業省主導で、全国4地域で進んでいるプロジェクト「次世代エネルギー・社会システム実証」のうち、北九州市のプロジェクトでは、新日本製鉄が出資した天然ガス発電所である「東田コジェネ」を集中電源と見立てて、同社が持つ自営線を使って各戸に電力を供給することによって、電力の需給状況に応じて電力料金を柔軟に変える「ダイナミック・プライシング」の実証実験を検討、2012年4月にスタートさせる。
計画では、地域内の家庭200戸と、700の事務所を対象に、翌日の電力予測に基づいて30分単位で電力料金を通知する。需要が大きい時には高い料金を設定することで消費者の行動を促し、これによって電力をどの程度抑制できるかを検証する。
「次世代エネルギー・社会システム実証」のうち、横浜市のプロジェクトでは、国内で初めてオフィスビル向けのデマンドレスポンスの実証事業を開始する。2011年12月に東芝、丸紅、三井不動産、三菱地所の4社が発表した。
具体的には、各社が保有する「みなとみらいグランドセントラルタワー」「横浜三井ビルディング」「横浜ランドマークタワー」の各ビルを統合的に管理するBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入する。地域レベルのCEMS(地域エネルギーマネジメントシステム)からの電力エネルギーの需要管理指令に基づき、各ビルの電力使用状況に応じて使用量を割り振る仕組みを検討するという。
■「日本版デマンドレスポンス」の議論を
こうした動きの先には、電力会社管内でいかに本格的なデマンドレスポンスを推進するかという課題が控えている。一つの突破口になりそうなのが、東京電力管内でスマートメーターの全面導入が進められていることだ。2012年1月22日付の日本経済新聞の報道で明らかになったところによると、東京電力は更新期を迎える電力計から順次スマートメーターに置き換え、2018年度までに約1700万世帯に全面導入する。
これまで日本では、2010年6月に発表された改定エネルギー基本計画で、「2020年代の可能な限り早い時期に原則全ての需要家にスマートメーターを導入する」という方針のもと、東京電力は「2010年末から2~3年かけて約9万戸を対象にした実証実験を行う」としていたが、全面導入の意向を示し、時期を明らかにした意味は大きい。
日本の電力会社がこれまでスマートメーターを導入してきた第1の目的は、検針の自動化だったが、全面導入決定の背景には今後深刻化する電力不足、電力料金高騰を見据えて、デマンドレスポンスなどの省エネサービスを展開するためのツールにしようとのもくろみがある。デマンドレスポンスの実施には必ずしもスマートメーターが必須というわけではないが、米国ではスマートメーターの双方向通信機能を活用したデマンドレスポンスの導入が活発化し、効果も見え始めたことが影響していると思われる。
今後、一括受電サービスの一環としての閉鎖系デマンドレスポンスや、実証プロジェクト内で行われている実験データが蓄積されていく。このデータによって消費者行動などを分析し、さらに今後の電力供給状況、電力制度の改革の行方を踏まえて、日本版のデマンドレスポンスのあり方を議論していく必要があるだろう。
iPhoneからの投稿