追跡2012:再生可能エネ、計画相次ぐ /愛知
毎日新聞 2012年07月01日 地方版
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太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電拠点の新・増設計画が東海3県で相次いでいる。福島第1原発事故を教訓とした再生可能エネルギーの普及に向け、固定価格買い取り制度が1日スタートする。浜岡原発(静岡県御前崎市)が停止中の中部電力管内でも夏の節電期間が2日から始まり、再生可能エネルギーの重要性は増している。東海地方の現状と課題を探る。毎日新聞【森有正、高橋昌紀、米川直己、三上剛輝】
◇豊かな日照生かし 国内最大級「太陽光」--愛知・田原
豊かな陽光に恵まれ、潮風が吹き抜ける渥美半島沿岸の愛知県田原市緑が浜。ナゴヤドーム17個分という広大な空き地を指さし、三井化学の中岡淳広報課長は胸を張った。「今は草原ですが、ここに国内最大級のメガソーラー(大規模太陽光発電)が現れます」
三井化学や東芝、東レなどが参加し、10月着工予定の「たはらソーラー・ウインド共同事業」の建設地だ。約60万平方メートル分の太陽光パネルと風力発電の風車3基を設置し、発電規模は計5万6000キロワット。14年2月に完工し、田原市の9割に相当する1万9000世帯の年間消費電力をまかなえるという。
土地は三井化学が所有し、もともとは自動車部品向け樹脂工場建設を予定していた。だが、部品会社の海外移転などで20年以上宙に浮き、同社は近隣に風車が点在することに着目した。渥美半島は日照時間、平均風速とも国内最高水準。さらに「固定価格買い取り制度の導入で採算の見通しが立った」(中岡課長)と事業化を決定した。約180億円を投じるが、20年以内に回収可能とみる。
中部経済産業局は「東海地方の臨海部は工場移転などによる遊休地も多い。メガソーラー計画は今後も出てくるだろう」とみる。
◇地産地消の手本に 農業用水で「小水力」--岐阜・郡上
のどかな田畑に囲まれた水路で水車が回る。白山連峰から水が豊富に流れ込む岐阜県郡上市白鳥町石徹白(いとしろ)地区は農業用水を利用した発電に取り組む。3基ある水車は最大で直径3メートル。ダムより規模がかなり小さく、「小水力発電」と呼ばれる再生可能エネルギーの一つだ。
地区の人口は約270人。50年前の4分の1と過疎化が進み、「水車で地域活性化を」と住民が協力して08年1月から発電を始めた。観光客を呼び込んだだけでなく、電気代が負担となって休止していた農産物加工所が水車の電力で復活し、特産物づくりに取り組む。ダムなどに比べて設備投資の費用が少なく済み、電気代は安い。
水車3基の出力は計3キロワットにすぎない。だが原発事故後、地域で必要な電力を再生可能エネルギーでまかなう「地産地消のモデル」と注目され、全国から視察が相次ぐ。
水車を運営するNPO法人「地域再生機構」の平野彰秀副理事長は「震災や原発事故で大規模な電力システムのもろさがわかった。それを補う『エネルギーの自給』は重要性が増すだろう」と話す。
同地区は15年までに水車を増設する計画。増設後は地区全体の消費電力に見合う発電を確保できるという。
◇買い取り制度、後押し
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が後押しする形で、東海3県では電力会社以外の異業種企業などが次々と再生可能エネルギーによる発電参入計画を発表している。
日照時間が全国平均より長い愛知、三重県の太平洋側では、太陽光発電設置の動きが目立つ。三重交通グループの三交不動産は三重県伊勢市二見町の大型団地そばに建設。年間想定発電量は550万キロワット時で約1500世帯の年間電気使用量に相当するという。近畿日本鉄道も、沿線の遊休地を活用し、13年度にも三重県内に発電施設を建設することを検討している。
風力発電は、三重県津市と伊賀市にまたがる青山高原周辺に多い。若狭湾から伊勢湾へ抜ける「風の通り道」と言われ、両市と中部電力子会社のシーテックが出資する第三セクターなどの風車51基があるが、17年3月までに40基増設する計画。増設分の最大出力は約8万キロワットで約5万5000世帯の電力がまかなえるという。
小水力発電は、山間地が多い岐阜県に加え愛知県も農業用水の長さが全国3位という利点を生かし、発電量1位を目指している。
◇電力消費、家庭で制御 スマートハウス、トヨタなど実証実験
愛知県豊田市では、市やトヨタ自動車、中部電力などが参加し、住宅の太陽光パネルで発電した電力を家庭や地域で効率的に利用しようという実証実験が進められている。
中核は「スマートハウス」の実験。IT(情報技術)ネットワークを活用した「家庭用エネルギー管理システム(HEMS)」が電力の流れを制御し、電力を賢く(スマート)使う仕組みだ。HEMSは太陽光の発電量や家電の電力使用量をモニターに表示し、電力が足りなくなりそうな場合、エアコンの温度を自動的に調節することなどが可能。スマートフォン(多機能携帯電話)からも操作できる。
家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)や蓄電池も備わる。昼間に太陽光で発電された電力をPHVや蓄電池に充電し、夜間には充電された電力を家電に使う。また、太陽光以外の電力は、料金が安い夜間にPHVや蓄電池に充電し、昼間の電力ピーク時に使える。こうした電力の使い方はHEMSがコントロールする。HEMSはITを通じて他の住宅とも結ばれ、近所で電力を融通し合える。
実証実験は、政府の補助事業として11年9月、トヨタホームの分譲住宅14戸でスタート。14年までに最大230戸まで順次拡大し、実験成果を普及に役立てたい考えだ。
原発への依存度を下げるには、再生可能エネルギーの普及が急務だ。火力より二酸化炭素(CO2)の排出が少なく、地球温暖化防止にも役立つが、普及に向けた課題は多い。
最大のハードルは発電が天候に左右されることだ。固定価格買い取り制度の導入で企業のメガソーラー計画や家庭の太陽光パネル設置が相次いでいるが、中部電力の8月のエネルギー別電力供給見通しで太陽光の比率は0・3%にとどまる。大半を火力に頼り、残りは水力と揚水発電(電気代の安い夜間に水をくみ上げ、電力需要の多い昼間に放水)だ。
中部電力の供給見通しには、自社の太陽光発電(愛知県武豊町)のほか、家庭などから買い取る太陽光発電が含まれるが、太陽光の発電量自体がまだ少ないうえ、「安定した電力として供給見通しにカウントできるのは一部」(幹部)という。発電が不安定だと、停電に加え、電圧が急に下がって精密機器の生産に支障が出かねないからだ。安定供給には蓄電池を社会的インフラとして整備することが必要だが、コストと時間がかかる。
◇水利権取得に時間
小水力発電の普及には水利権取得の手続きの煩雑さがネックとなっている。農業用水を利用した発電には水利権取得が必要。だが、岐阜県によると、県内を流れる河川の約9割は慣行水利権が設定されている。慣行水利権は、明治時代に水利権に関係する法律が成立する前に取り決められていたもので、発電用の水利権取得には、現行の水利権に置き換える手続きが必要なため、通常より長い2~3年を要するという。
名古屋産業大環境経営研究所の清水幸丸所長は「小水力発電の普及促進には水利権取得手続きの簡素化が必要」と指摘する。
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■ことば
◇再生可能エネルギー固定価格買い取り制度
太陽光や風力、小水力などで発電した電力を電力会社が一定期間、一定の価格で買い取ることを国が義務づける制度。再生可能エネルギーは発電コストが高いため、発電事業者が採算が取れるように買い取り価格を高めに設定し、参入を促す狙い。電力会社の買い取り費用は家庭や企業の電気料金に上乗せされる。標準家庭(月間使用量300キロワット時)の月間上乗せ負担は中部電力管内で99円。
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