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必読 国民負担を凌ぐ、再生可能エネルギーの経済効果

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国民負担を凌ぐ、再生可能エネルギーの経済効果

みずほコーポレート銀行産業調査部の若林資典副部長に聞く

バックナンバー2012年6月26日(火)
詳しくはここから

 ようやく日本でも再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(フィード・イン・タリフ:FIT)が7月1日に施行される。経済産業省は4月27日、制度の肝となる買い取り価格と期間の原案を公表。パブリックコメントを経て、6月18日に政省令の全貌を明らかにした。

 FITは再生可能エネルギーの導入によって生じるコストを電気料金に上乗せすることで、国民が負担する制度だ。経産省の試算によれば、電力料金が月額7000円の標準家庭の電気料金が全国平均で月87円が上乗せされる。ともすれば、負担論ばかりが取りざたされるが、FITには産業振興の側面が大きい。
FIT導入で得られる経済効果について、みずほコーポレート銀行産業調査部の若林資典副部長に聞いた。なお、このインタビューは買い取り価格などの原案が公表された4月27日に行ったものである。
(聞き手は山根 小雪)
経産省の原案は、再生可能エネルギーの買い取り条件を、非住宅用の太陽光発電が税込み42円で20年、風力発電は同23.1円で20年と、当初の想定よりも高い水準になっています。


みずほコーポレート銀行産業調査部の若林資典副部長
若林氏:価格と期間の水準は、再生可能エネルギーを推進するという立場に寄ったものになりました。日本の再エネ導入量は約1%(大規模水力を除く)。他の先進国や中国よりも低い水準にとどまっています。これだけ少ない導入量から、本気で普及させるには、最初は大きな力が必要です。昨年7月の法制定時に、施行から3年間は一気に普及させるための期間と定めています。好条件での買い取りは、法律の趣旨通りです。

 2000年にFITをスタートしたドイツをはじめ、多くの国々にFITは広がりました。日本は導入が遅くなった分、先行するドイツやスペインでの失敗例に学ぶことができる。例えばスペインでは、2008年に設定した好条件で、強烈な太陽電池バブルが発生。スペイン政府は再エネを受け入れ切れず、今年に入って、ついに制度をストップさせてしまいました。FITの運用で重要なのは、導入量や価格の乱高下を防ぐこと。買い取り価格が高すぎて、想定以上に導入量が増えてしまったり、逆に価格が低すぎて普及が進まないといった極端な状況に陥ったりしないように、買い取り条件をコントロールしていけばよいのです。

経産省は、半年ごとに設備コストの下落などを確認し、買い取り条件をチェックすることも検討しています。買い取り条件の適正な見直しが重要なのですね。日本がFIT導入で後発だからこそ、制度に盛り込むことができた工夫もあるのでしょうか。

若林氏:あります。それは「IRR(内部収益率)」を制度の軸に据えたことです。IRRとは、プロジェクトの事業採算性を示す指標です。金融の視点が国の制度に組み入れられたことは、画期的なことではないでしょうか。

 例えば、風力発電のような、中程度のリスクをはらむ発電プロジェクトの場合、IRRは税引き前で5~6%が適当としました。この数字を基に買い取り価格や期間などの詳細な条件を決めているのです。また、制度開始から3年間は特例的に、IRRに1~2%を上乗せすることにしています。これは、スタートから3年間は一気に普及させるための期間と定めているためです。

 太陽電池の場合、向こう3年間のIRRは6%。産業界からのヒアリングを基に、設備コストをキロワット当たり32.5万円と算定しました。そこから、1キロワット時当たり税抜き40円という買い取り価格を弾いたわけです。太陽電池の価格の下落は凄まじい勢いです。この仕組みならば、設備コストが下がれば、おのずと買い取り価格も下がります。例えば、設備コストが32.5万円から25万円に下がれば、買い取り価格は40円から33円に下がります。

 ここでいうIRRは、プロジェクトの事業採算性を示す数値。つまり、金融機関から融資を得てレバレッジを効かせれば、エクイティ利回り(自己資金に対する利回り)が10%前後まで高まることを意味します。低金利が続く昨今、これだけの利回りが見込める金融商品は珍しい。企業や金融機関にとっても、再生可能エネルギーの導入プロジェクトは魅力的な投資先になるでしょう。

FITの議論では、再生可能エネルギーの買い取りにかかる費用を、電気料金で国民が負担することに懸念の声もあります。

若林氏:経済産業省の試算によれば、FITによる国民負担は当初、2000億~3000億円。電気料金が月額7000円の家庭で、70~100円と言われています。この金額が、毎年うなぎのぼりに増えていくイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。

 当初の負担額の多くが、2009年に開始した住宅向けの余剰買い取り制度による負担なのです。つまり、新たに導入される再生可能エネルギーによる負担分は小さいものです。いま、日本の電力量のたった1%分しかない再生可能エネルギーを、FITをテコに必死に増やしても、この負担額が一気に倍増するわけではありません。

 ドイツは現在、1兆円の国民負担があり、家庭での負担も重いと言われます。それには理由があります。ドイツは、鉄鋼や化学などエネルギー多消費産業の多くを除外しているため、残る企業や家庭での負担が大きいのです。一方、日本も電力使用料の多い製造業などに減免措置は設けることにしていますが、ドイツほどの産業界優遇にはならない見通しです。

 国民負担の観点でいえば、電気料金に上乗せされる負担額の控除項目である「回避可能費用」の算定も極めて重要です。回避可能費用とは、電力会社が再生可能エネルギーを買い取ることにより、本来予定していた発電を取りやめ、支出を免れることが出来た費用を指します。これが実態より少なすぎると、国民負担にまわる金額が増えてしまう。実態をよく反映した公正で透明性のある算定が望まれますが、買い取り条件と違って、こちらは第三者委員会での検討対象にすらなっていません。本来であれば、回避可能費用についても、考え方や算定方法について、もう少しきめ細かい体系を持ち込んだ方がよかったと考えています。

つい負担論ばかりに目が行きがちですが、経済効果はどのくらいあるのでしょうか。

若林氏:当社が5月に発行した「日本産業の中期展望-日本産業が輝きを取り戻すための有望分野を探る-」という調査レポートで詳細を紹介していますが、再生可能エネルギーはヘルスケアや農業に並ぶ成長産業の筆頭株です。ポスト3.11に成長する新産業の中核を担うのは、間違いなく再生可能エネルギーでしょう。

 再生可能エネルギーの発電施設・設備に対する投資額は、2010年は世界で約2000億ドル(約17兆円)と、2005年から5年で4倍に急成長を遂げています。これは、1995年ごろの携帯電話市場やパソコン市場に近い成長率です。

 しかも、金額も相当大きい。現在、パソコンの市場規模は約20兆円。液晶が10兆円で、半導体が20兆円の市場です。再生可能エネルギー市場が、実は既にかなり大きな市場であることがわかるでしょう。この成長を後押ししているのが、FITなのです。

 かつて日本の電力会社は毎年4兆~5兆円規模の設備投資をしていました。それが現在では2兆円規模にまで縮小しています。電力会社の投資額のマイナス分を埋めていく力を再生可能エネルギーは秘めているのです。

 現在、世界の再生可能エネルギー市場の約9割を、太陽光と風力が占めています。両者がシェアを二分している状況です。FITで太陽電池市場が拡大すると言われると、「中国製パネルばかり売れて、資金が中国へ行ってしまうのではないか」とお思いになるかもしれません。FITの名の下で、中国製パネルを国民負担で導入することに嫌悪感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。ただ、中国製でも十分な経済効果があるのだとお伝えしたい。

 太陽電池のコスト全体に占めるパネルコストは、半分以下。残りは営業費用や施工費用です。たとえ、パネルが日本製でなくても国内にカネは必ず落ちます。しかも、太陽電池を全国各地に設置すれば、施工の仕事が地方の工務店などに回ります。

 再生可能エネルギーの普及で世界のトップを走るドイツは、太陽電池の約8割が中国を中心とする輸入製品です。それでも、再生可能エネルギーの関連産業の雇用は、2004年の16万人から2010年には37万人にまで増加しています。海外では、FITはエネルギー政策であると同時に、雇用創出策でもあるのです。日本でも同様の効果が期待できるでしょう。


 ただ、「安かろう悪かろう」の太陽電池などを受け入れるのは望ましくありません。FITの対象となる太陽電池などの発電設備を認定する制度を、適正に運用していくことが欠かせません。品質の悪い太陽電池などを大量に導入すると、投資に対して得られる電力量が目減りしてしまいます。

福島県では、浮体式洋上風力発電所を建設する方針が固まり、政府の補助金が付くことが決まりました。浮体式だけでなく、陸上風力や着底式洋上風力も福島県に建設し、風力産業を集積しようというプランだそうですね。

若林氏:東京電力・福島第1原子力発電所1~4号機の廃炉が決まったこともあり、原発による雇用が減少することが予測されます。当社の試算によれば、4ギガワット(ギガは10億)分の風車を福島県で生産して建設すれば、原発停止によって失われた雇用と同規模以上の雇用が生まれます。同様に、原発停止によって失われる福島県のGDPの約5割を賄うことができます。

 風力発電は、自動車に似た組立産業です。すり合わせ技術が求められ、日本企業が得意とする領域です。ところが、日本の風力発電機メーカーは、トップの三菱重工業ですら、世界市場ではトップ10圏外です。いま日本は、風車がわずか2.5ギガワット分しかありません。足下のマーケットを力強いものにすることが、日本の風車メーカーの競争力を高めることにつながります。風車メーカーの工場が福島県にできれば、おのずと部品メーカーが集まってきます。かなりの雇用創出効果が見込めるはずです。

 太陽電池のように、中国製の風車などが流れこんで来る可能性はあります。ただ、太陽電池と違って、風車は重量構造物なので輸送コストがかかります。国内に生産拠点や物流拠点が生まれる可能性を秘めているわけです。FITを契機に上手に国産風車を育てていきたいものです。

FIT導入で、再生可能エネルギーの導入の足かせであった経済面での課題は払拭されます。ですが、それだけで再生可能エネルギーが一気に普及するとは思えないのですが。

若林氏:その通りです。FITの導入だけでは不十分です。再生可能エネルギーの導入を妨げている様々な規制や、電力会社の電力網との接続条件の緩和などが欠かせません。いまのままでは、いくら再生可能エネルギーに投資しようと考える企業が出てきても、規制や電力会社との協議のなかで、断念せざるを得ないケースが多々でてきてしまうでしょう。

金融機関として、FITは大きなビジネスチャンスになるのでしょうか。

若林氏:FITの導入で国内に再生可能エネルギーにまつわるプロジェクトファイナンスが多数、発生するでしょう。金融機関としてプロジェクトに融資するのはもちろん、計画の立案など初期段階からプロジェクトのコーディネートもしていきたいと考えています。

 金融業界にとってもFITはビジネスチャンスです。当社は、再生可能エネルギーとしては、太陽光はもちろんですが、風力の伸びしろに特に注目しています。再生可能エネルギーのなかで、風力は発電コストが最も安く、世界各国では真っ先に風力の導入が進んでいます。ところが、日本はまだ導入が進んでいません。ここにビジネスチャンスがあると見ています。

山根 小雪  【日経ビジネス記者】





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