買い取り価格アップ 消費者は負担増も
大型のソーラーパネルが並ぶ太田市のメガソーラー。各地で建設が進んでいる
のどかな田園風景に囲まれた太田さくら工業団地。一歩足を踏み入れると、湖面かと一瞬見まがう黒いパネルの広がりが、目に飛び込んできた。太田市が団地の一画に設置を進めているメガソーラーだ。約4ヘクタールの敷地で小規模な水力発電所1基に相当する出力1500キロ・ワット、年間約160万キロ・ワット時を発電する予定で、再生可能エネルギー特別措置法に基づく電力買い取りが始まる7月の発電スタートを目指し、作業は配線などを残すばかりとなっている。
■膨らむ夢
同市は日照時間の長さなどから「太陽光のまち・太田」として、10年ほど前から太陽光発電の普及に力を入れてきた。設置家庭に奨励金を支給し、2010年度までにすでに約2500軒が導入した。公共施設も合わせれば市内の合計出力は、約3000軒分に当たる1万キロ・ワット近くになる。
メガソーラー事業は、太田市が「太陽光発電のシンボルとなる施設を作りたい」(産業環境部)と始めた。そこに、特措法の強い追い風が吹いた。
市は当初、1キロ・ワット時あたり35円での売電を想定していた。年間5500万円程度の収入が見込まれ、リース料を払うと収支がようやく賄える程度だった。今年4月に経済産業省の調達価格等算定委員会が示した太陽光の買い取り価格が42円と大幅に引き上げられたことで、状況は大きく上向いた。リース料を払っても1000万円以上が市に入る見通しとなり、清水聖義市長は「利益は市民への太陽光発電普及に使いたい。エネルギーの『地産地消』を進める」と期待を寄せる。
■家庭需要は確保
特措法は、東京電力福島第一原発の事故を受けて新たなエネルギー源確保の必要性が高まる中、買い取り価格を保証することで、再生エネの普及を後押しする狙いがある。調達価格等算定委員長の植田和弘・京大教授は「再生エネの開発を急速に推し進めるため、当初は事業者の利益に特別に配慮しようということだ」と解説している。
経産省・資源エネルギー庁によると、国内の再生エネによる発電量は、水力を除けば1%程度に過ぎない。今年5月に経産省の総合資源エネルギー調査会基本問題委員会がまとめた2030年の電源構成に関する中間報告では、水力も含む再生エネの割合を現在の約10%から、25~35%へと大幅に高める案が示された。
群馬県も今年3月、水力発電を含む再生エネについて、15年度までに現状の86万キロ・ワットを105万キロ・ワットへと引き上げる目標を設定した。再生エネのうち太陽光を11%から25%に高めることが柱となる。県科学技術振興室は、「これを達成すれば県内の一般家庭の総需要(約44億キロ・ワット時)は賄える」と強気だ。
もっとも、工場や商業施設などで使う事業用も含む05~09年度の平均電力消費量は167億キロ・ワット時に及ぶ。多くの水力発電所を抱える県内でも、電力自給率は25%前後に過ぎない。目標を達成しても電力自給率全体は27%にしかならない計算だ。
■コストがネックに
ホームセンター大手のカインズ(高崎市)は、5月30日にオープンさせた佐倉店(千葉県佐倉市)で、照明に発光ダイオード(LED)を全面採用した。店舗の大型化に伴い、電力使用量も増大。同社の最大規模の店舗(延べ床面積1万5000平方メートル程度)では、年間の電気代は3000万~5000万円程度に達する。
東電による事業者向け電気料金の値上げで、東電管内約100店舗の電気代だけで年間2億円程度増える見通しだ。同社は照明のLED化などの省エネ対策により、少しでも電気代負担を減らしたい考えだ。
だが、再生エネの買電費用が上乗せされることで電気料金はさらに高騰する可能性がある。一般家庭でも1か月70~100円程度負担が増えるとの試算があり、企業によっては多額の負担が生じる恐れもある。
さらに、富士常葉(とこは)大の山本隆三教授(エネルギー・環境政策)は「太陽光や風力は出力が気候に左右され不安定で、発電できない時の補助のため、結局火力発電などのバックアップが不可欠。その分コストは高くなり、負担は消費者がするしかない」と危惧する。欧州でも料金値上がりへの反発で再生エネの買い取り価格や方法を見直す動きも出ていると指摘し、安易な導入に慎重な姿勢を見せる。
製造業が集中する太田市で部品製造などを行うある中小企業では、東電の値上げを受けて残業を減らすなどのコスト削減策を行っており、同社の社長(62)は、電気料金が上昇した場合、「自前で発電機を付ける資力もないし、どうしようもない。製品価格にも転嫁できず、ものづくりは終わってしまう」と訴えている。
課題山積のまま、太陽光の時代が幕を開けようとしている。
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原発事故を受けたエネルギー問題の解決に向け、再生エネへの関心が高まっている。群馬は日照時間の長さ、水の豊富な山がちの地形など、再生可能エネルギー源の宝庫として期待は大きい。だがコストや不安定な出力など、解決すべき問題も多い。エネルギー不足をいかに克服するのか。県内の最新の動きと将来像を探る。
再生可能エネルギーに関するご意見をお寄せ下さい。ファクス(027・232・2262)かメール(maebashi@yomiuri.com)で。
(2012年6月6日 読売新聞)
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