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日経オンライン、メガソーラー最大のリスクは系統接続

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メガソーラー最大のリスクは系統接続

山家 公雄  2012年5月10日(木)
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 4月末に、政府の固定価格買い取り制度(FIT)の条件が公表され、太陽光発電(メガソーラー)は、期間20年・価格42円(1キロワット時当たりの税込み価格、税抜きでは40円)となった。現在、パブリックコメントを募集しているところである。他の再生可能エネルギ-を含めて、概ね普及を睨んだ条件になっているとの評価である。特に、太陽光発電に対する関心は高く、42円という水準について様々な反響が出ている。今回は、引き続きメガソーラー事業の経済性をみていく。

電源線建設を巡る論点

 前回、太陽光発電協会(JPEA)が政府の委員会に提出した資料を掲載した(資料1)。メガソーラーの「システムコスト」として、コスト等検証委員会(2011年12月報告)では1キロワット当たり35~55万円と発表された。2012年3月に調達価格等算定委員会に提出された資料では、これが32.5万円まで下がった。システムコスト以外に、昇圧設備、電源線建設などの系統接続に要する費用や土地造成費、土地賃借料、事業税などを「FITの原価」として新たに付け加えている。

資料1.太陽光発電協会のメガソーラー・コスト試算

(出所)太陽光発電協会
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 その後、資源エネルギ-庁が関連事業者からヒアリングした結果としてまとめた資料を見ると、昇圧設備、電源線などの系統接続費用を含まずに事業者側は32.5万円を提示していたのに対し、エネ庁は系統接続費用を含めて32.5万円とした。これに負担に感じた事業者は買い取り価格42円(税抜き)を要望した、ということである。最終的に税抜きで40円と引かれたのは、見解の相違を反映したのだろうが、引き下げ幅は小さく、双方歩み寄ったと考えられる。

 前回も記したが、建設コストは、内外価格差をある程度織り込んだ1キロワット当たり30万円を一つの基本線として、価格差解消をさらに織り込むか、あるいは日本特有の事情をどの程度反映するかによって判断が変わってくる。

 とくに系統接続コストをどう見るかが大きな判断要因となる。メガソーラー計画をみると、その多くが2メガワットまでとなっているが、この場合は「高圧の配電線」との接続となり接続ポイントまでの電源線の建設コストは1キロメートル当たり約1000万円で済む。2メガワット以上になると「特別高圧の送電線」との接続となり、電源線の建設コストは同7000万~1億円が格段に大きくなる。その場合、採算を確保するためには、事業規模を拡大する必要が生じ、少なくても10メガワットは必要になると言われている。

 また、系統接続に要するコストが、機器の価格とならんで、内外価格差の一つの焦点となる。詳しくは後述するが、系統の信頼度や保安対応を重視する電力会社は、分散電源との接続に対して非常にセンシティブになる。太陽光発電所から系統に入るときに直流を交流に変えるインバーターなどの機器の仕様については、厳しいチェックを受ける。

 電源線の建設コストも大きなウェイトを占める。まず、誰が建設するかという議論がある。欧州では、FIT制度とセットで系統側が建設する。日本では、電源から系統へのアクセスポイントまでは発電事業者が負担する。通常は、電力会社の関連会社あるいはその下請け会社側が工事を行うが、設備が電力会社の設備となり一般にかなり高いコストといわれている。発電事業者側に設計のノウハウがあれば、単価の低い電気工事会社に発注でき、今後、ケースによっては専用引込み線の可能性もあるのではないかといえる。

 とくに、接続地点までの距離が長い場合は、電源線の費用負担が過大となり事業としてなりたたないケースも出てくる。投資判断を迅速に行ううえで、送配電網の容量情報を開示しほしいとの要望が多く聞かれる。高圧配電線の場合、接続ポイントとして考えられるのは変電所であり、そこのキャパシティが決め手になる。

 また、接続ができるかどうかの調査を含めて工事期間は長い。系統と接続するためには、電力会社との間で「連系協議」が必要になる。これは、電力会社に21万円を支払い、建設地一帯の電力容量などの調査を委託するものであり、調査期間は通常3カ月を要する。また、連系協議後の本体工事には、高圧では短くとも半年、特別高圧での送電線敷設などが発生する場合には数年ほどかかる。一方欧州では大規模発電所でも3分の1程度の期間で済むと言われている。

国産機器か海外産品か

 太陽光発電協会(JPEA)が要請した42円という水準は、国産品を使用しても成立する水準という判断があるのだろう。前回議論したように、海外産品はかなり低価格であり、これを活用できれば、もっと低い水準でも事業が成り立つだろう。しかし、海外製品の普及はそう簡単ではないとする見方がある。

 前々回にも触れたが、海外での市場停滞をうけて競争が行き過ぎた結果、パネルメーカーが撤退したり倒産したりする可能性がある。パネルに25年の品質保証があったとしても、事業者が存在しなくなると不安である。また、周辺機材を含めて海外の低価格品を組み合わせる場合、機器間の相性がよくないと故障の原因になる、と懸念する向きがある。

 この場合は、コントラクターやシステムインテグレーターのノウハウ、目利き力が問われることになる。金融機関の中には、このリスクを気にして、コントラクターなどにシステム全体の保証を求めるところもあるようだ。専業が多い海外勢に比べて、総合メーカーが多い日本勢は、会社自体は存続している可能性が高い。日本メーカーは、分社化を含めて太陽光発電部門を独立させるべきだという議論があった。OEMを含めてコントラクターなどの自足性が高まることが期待できるというわけである。消極的メリットのようにも聞こえるが。

「国際標準1000ボルト」vs「国内標準600ボルト」

 系統接続に係る課題は、電源線だけではない。

 前回、インバーターメーカーであるSMAソーラーテクノロジーやカコ・ニュー・エナジー、あるいは電力制御の巨人ABBの日本進出に触れた。技術力と大量生産を背景にコスト競争力をもっている。しかし、日本市場は、品質や保安を重視する特有ともいえるシステムになっており、それに対応する場合はやはりコストが上がるのではないか、という見方がある(資料2)。

資料2.メガソーラーのシステム

(出所)Green Solar and Wind Power
 例えば、太陽光発電をはじめとする分散型電源は、停電時に系統に逆流しないように「単独運転防止機能」が求められている。海外ではこうした制約はないが、停電時の保安などを軽視しているわけではない。その考え方が内外で異なるのである。海外勢は、日本ではインバーターなどにこの機能を付加することが求められる。

 また、電気設備基準の違いがあり、日本特有の基準を受け入れられるかという問題もある。欧米・アジア諸国は、太陽光発電所のシステム電圧について直流1000ボルトを標準としており、パワーコンディッショナーなどの関連機器もすべて1000ボルト仕様で設計されている。これは、IEC(国際電気標準会議)の基準をベースにしている。

 一方の日本は、電気事業法の関連省令「電気設備に関する技術基準を定める省令」で低圧上限を交流600ボルト、直流750ボルトとしている。同省令は、IEC準拠の設計も認めており、パネル、パワコンなどの直流側を全てIEC準拠の機器で構成すれば、直流1000ボルトの発電所も可能としている。電力会社からみると、1000ボルト仕様でも600ボルト仕様でも、長期にわたり信頼のおけるシステムであればよく、こだわりはもっていない(はずだ)。

 スイスの巨人ABBは、直流1000ボルト仕様のメリットを強調している。600から1000ボルトに昇圧する場合は、電圧上昇による送電ロスの減少、並列回路数の削減、機器の選択肢増などによりコストが削減でき、IRR(投資収益率)は2~3%上昇する、としている。また、国際標準の採用により、日本企業の国際競争力強化につながることも指摘している。ABBは、日本の基準である600ボルトに妥協せずに、国際標準である1000ボルト設計で勝負しようとしている。1000ボルト設計がどこまで日本で受け入れられるかは、新しい太陽光発電所市場が決めることになる。

カギを握る金融機関の対応

 あまりマスコミに取り上げられていないが、金融機関は投資の実現を左右する大きな役割を担う。FIT対象の再生可能エネルギ-発電は、文字通り長期にわたり固定価格で販売できることから、キャッシュフローが見えやすく、本来プロジェクト・ファイナンスに適する。かなりの余裕をもってFITが設定された欧州では、キャッシュフローが安定していて、破綻リスクのない再エネ事業は、金融商品ともなり巨額の資金が集まった。

 プロジェクト・ファイナンスは、企業の信用を担保に融資するコーポレートファイナンスと対比されるが、事業が生み出す収益を担保に融資の可否を判断する。通常は、事業リスクを精査し、リスクごとに責任分担を決めていく。責任が特定しにくいリスクは、主要出資者(スポンサー)やEPC(一括請負)事業者などに配分される。民間でとりにくいものは、政府がテイクする(支援する)ことを求める場合もある。再生可能エネルギ-は、政府支援が重要な役割を担う。FITだけですなまい場合も出てこよう。

 それでも不透明な部分が残る場合は、自己資金の積み増しや、キャッシュの引き出し制限(一定量の預金口座滞留義務)などを課す。メガソーラーのような事例の少ない事業には特に慎重になるが、事業者以上の情報をもっておらず、調査にもコストがかかるため、事業者が申し出た数字を割り引いて対処しようとする。

 メガソーラー事業のリスクとしては、まず機器やシステムが額面通りの性能や耐久性を維持できるのかが挙げられる。主要部材であり20年以上はもつとされるモジュール、モジュールよりも短いパワコンなどの電気機器、それらがパッケージとなったシステムなどについて、精査(確認)する必要がある。モジュールについて25年間補償を提示している中国メーカーもあるが、業界再編必至といわれる中でいつまで企業が存続するのかなども気になる。もちろん、規制(緩和)や慣行、(暗黙の)ルールなどをどの程度織り込むか、それらをクリアできるかにも留意する。

 これらのハードルをクリアするために求められる収益性はかなり高くなる。投資IRRだけで買い取り価格の水準を判断すると、金融が付かないこともあり得る。ファイナンスを考えると40円台は不可欠で、40円代後半となっても大げさではない。金融機関の保守的な姿勢が買い取り価格を押し上げる方向に働く。

 事業者は、性能や耐用性を重視して国内実績のある日本製品をそろえるのか、現状の買い取り価格を前提に採算を確保するためにコスト切り下げを優先し海外製品産を導入するのか、を判断することになろう。海外品をある程度組み込んでも全体システムを維持できる事業者は競争力を持つ。そうなると国内メーカーもさらなるコスト削減を迫られることになる。

 こうした状況下での妙手は、政策金融の活用である。これは筆者が政府系に属するから主張するのでは決してない(本シリーズを通して個人的な見解であるが)。国家信用を利用して長期低利の融資を一定限度行えば、期間リスクや信用リスクを補てんでき、民間銀行も積極姿勢に転じられる。財政負担を伴わずに電力料金の上昇抑制にも寄与する。電気新聞によれば、エネルギ-に詳しい旧興銀出身の柿沼正明衆議院議員は、最近の講演で政府系と民間銀行の組み合わせや政府による債務保証活用の重要性を強調している。ドイツ、イギリスなどの欧州でも政府系金融を積極的に活用している。政策金融を民間金融の呼び水として活用し、再生可能エネルギ-事業に資金が回ることすることが重要になる。

42円は高いのか

 現状では、電力システムや国内規制や慣行が変わるのに少し時間がかかること、金融機関の予想される保守的なスタンスなどを鑑みるに、内外価格差はすぐには埋まらないと考えられる。しかし、20年間・1キロワット時当たり40円(算定委員会では消費税の影響を受けないように税抜としている)という水準はどう考えても安くない。再生エネ普及、FIT導入に弾みをつける時期としてやむを得ないが、このままの水準が続くことは考えにくい。風力は23.1円、中小水力は1メガワット以上で25.2円、地熱は15メガワット以上で15年・27.3円である。国内メーカーは、しばらくは一息つける水準かもしれないが、自ら内外価格差縮小を強力に進めないと、発電事業者は海外製品になびいていくだろう。

 メガソーラー建設という新しい事業開始を機に、国内メーカーや電力会社は、従来の保安・品質の考え方を見直すことも重要である。世界市場に打って出ざるをえないという前提では、趨勢でありポジティブであろう。発電事業者も、土地があるからやってみようという安易な発想ではなく、設計から調達・建設・運営・メンテまでを含むノウハウを身に着けるというプロの意識が求められる。

 金融機関も、審査能力を高めるとともに全体を俯瞰するだけのゆとりを持ちたい。地熱やバイオマス、風力等に比べると、リスクはかなり小さいのである。このままでは、政策金融活用論が強まっていくだろう。









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