カンボジアで起業すべき10の理由
日経ビジネスより
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米ドルが流通、法人税が免除!
田村 耕太郎 【プロフィール】 バックナンバー2012年5月2日(水)1/3ページ
カンボジア証券取引所が4月18日にオープンした。初日から、地元の投資家を中心に買い注文が相次ぎ、活況を呈している。同証取のホン・ソクホーCEOは「5年以内に20社の上場を目指す」と鼻息が荒い。カンボジア市場で企業を目指す日本人の若手起業家が、徐々にだが増えてきた。ミャンマー、ベトナム、インドネシア、シンガポールの陰に隠れてはいるものの、カンボジア市場は魅力にあふれている。カンボジアを目指す日本人起業家たちに、その理由を聞いた。
プノンペンのにぎわう市場
1.誰も目をつけていない
カンボアで企業を目指す日本人は増えているが、その数はまだまだ少ない。現在、カンボジアに住む日本人はわずか2000 人で、そのうち7割くらいがJICAの関係者かボランティアと言われる。つまり、日本人ビジネスパーソンは 600人程度と推測される。もちろん、その大半が日本企業の現地駐在員。起業家となるとほんの一握りにすぎないだろう。これは日本人の間でブームとなっているインドネシアやベトナムとは大違いだ。ビジネスは逆張りが基本。そういう意味でカンボジアは穴場だ。
2.成長率は8%を上回る
カンボジアは1994年に内戦を終えた。その後、高成長が続いた。2000年からはさらに拍車がかかった。2000年以降の経済成長率は平均で8%を上回る。インフラは未整備ながら、発展の余地は大きい。
3.米ドルが流通している
カンボジアには「レル」というれっきとした現地通貨がある。だが、現実はドルが主流で、レルは補助通貨になっている。市場に流通している通貨の9割はドルだ。預金の95%もドルと言われる。カンボジアは経済が成長したため、現在はインフレ気味。金利は高く、預金金利は5%に上る。ドル預金を金利5%で運用できる国は他にない。
他の新興国の場合、起業家がせっかく稼いでも、現地通貨はインフレ気味で信用が低い。持っていても、うま味が少ない。また海外に持ち出せない場合もある。これでは事業をする意義が問われる。高成長の新興国なのにドルで事業ができるのはカンボジアの大きな魅力だ。
4.英語が通じる
カンボジアの公用語はクメール語。これは非常になじみが薄く学びづらい言語だ。しかし、首都プノンペンにいる限り、英語で事足りる。タクシーから場末のレストランまで英語でOKだ。理由は単純、経済がオープンになりグローバル化する中で、英語が話せるだけで給料が2~3倍となる。なので、カンボジア人が英語に取り組むインセンティブは高い。短期間で、あっという間に英語を習得している。英語が通じるのは、起業環境として理想的だ。
5.通信インフラが整っている
カンボジアでは、いわゆるリバース・イノベーションが起こっているようだ。固定電話回線の施設をすっ飛ばしてモバイル環境の整備が進んでいる。携帯電話の普及率は人口比で100%超と言われる。Wifi設備を持つ街角のカフェも、日本よりずっと多いと言う。ある人はカンボジアの現状を「携帯電話のある三丁目の夕日の時代」とたとえた。
6若者が多い
カンボジアの平均年齢は22.9歳。人口は1400万人で、ベトナムの8000万人やインドネシアの2億人には遠く及ばない。しかし、小さいからこそ大企業が狙わない。ゆえに、ベンチャー企業にとってはチャンだ。ベンチャーにとって、1400万人は小さい市場ではないかもしれない。
7.親日的
カンボジアは非常に親日的だ。これは東南アジア諸国全体に言える。大戦後、焼け野原から経済復興した日本に対して、敬意も持っている。日本がODAで多額の援助を行っていることに対する感謝の気持ちもある。ソニーやトヨタなど、日本企業が持つ技術力に対するあこがれもある。親日的な環境は日本の起業家にとって重要だ
8.就労ビザが容易
これは、意識することは少ないが、非常に大事な問題だ。自国民の雇用を優先し始めたアジア諸国は、就労ビザの発行している。いくらビジネスをしようとしても、ビザが下りなければ不可能だ。カンボジアの就労ビザは申請から数日で取れる。コストも非常に安い。労働証明書と労働記録の費用は年間100米ドル、健康診断料は15米ドルと東南アジアでは断トツの安さだ
9.外資規制がない
カンボジアでは、土地の取得以外、外国人に対する規制がほとんどない。100%単独資本であらゆるビジネスができる。タイやベトナムと異なり、業種ごとにライセンスを強要することもない。稼いだ米ドルを自国に持ち帰るのも自由。逆に言えばカンボジアはすべてのビジネスを外資に乗っ取られるリスク覚悟で経済を開放し成長を狙っている。それだけの覚悟を政府が見せている。そういう点でも今後の高成長が期待できる。
10.証券市場ができた
カンボジア証券取引所(CSX)が2011年7月に開設した。今月から取引が始まった。起業家として、“出口”ができたのはありがたい。プノンペン水道局にも上場の承認が下りた。これから多くの企業が上場する予定だ。上場の基準や手続きは非常に簡素で、世界の投資を集めるべく努力する姿勢を見せている。
カンボジアでの起業を目指す横井さん
ここでカンボジアでの起業そして上場に果敢に挑む一人の若手起業家を紹介したい。その名は横井朋幸さん。2011年、筆者がインドから日本に帰る途中、シンガポールに立ち寄った時にお会いした方だ。とても行動的で情熱的な起業家だ。
1979年、鹿児島生まれ。高校時代はバンド活動に熱中し、卒業と同時に渡英した。英国で、とある起業家に師事し、起業家精神を養って帰国。会計を学び、簿記1級を取得した後、北海道大学に進学。22歳で社会保険料最適化ビジネスを起業して成功。その後、売却。アジアでの起業を目指し、アジア各国を視察中だ。
以下、横井さんとの一問一答。
成功している事業を売却して、なぜアジアで起業?
横井:日本で日本円しか稼げない事業をやっているのは非常にリスクが高いです。私は社会保障のプロですから、日本の社会保障制度が限界にきていることはよく理解しています。
私のことをリスクテーカーとか無謀なチャレンジャーと呼ぶ同世代もいます。でも私は、将来の計画を持つことなく、日本に残って暮らしている人たちの方がリスクテーカーだと思います。若いうちに、しっかり成長するアジアで、日本円以外の収入源を持っておく方がリスクヘッジになります。
英語もろくに話せず、日本円で預金して、長期の住宅ローンを組む――私には理解できません。
カンボジアでどんな事業をスタートするの?
横井:飲食業です。カンボジアでは、イノベーションは必要ありません。日本で成功したモデルを持っていけばいいと思います。人件費も材料費も安いのに、とても高級な料理を提供できます。カンボジアには素晴らしいコーヒー農園もある。ハイエンドのコーヒーや料理は日本並みの値段で売れます。非常に収益性が高いのです。
プノンペンのおしゃれなバー(横井さんのお店ではない)
これから、購買力の高い外国人が劇的に増えます。飲食業の客層が拡大することになります。2000年には5万人しかいなかった外国人が2010年には250万人になりました。2020年までに750万人になると言われます。
背景には外資企業に対する優遇策があります。外資系企業は、法人税が9年間免除されます。ビジネスを振興するため、輸入関税はゼロです。
飲食業はロケーションが勝負。今なら良いロケーションを低コストで抑えることができます。若者が多く、外国からの投資も増える。そのため、飲食業へのニーズは高まるばかりです。非常に楽しみです。
将来の目標は?
横井:世界で勝負するグローバルベンチャーを、2030年までに100社立ち上げたいです。日本には素晴らしい伝統・文化があり、世界に誇れる国です。唯一の欠点は“閉鎖的”であること。そしてこれから高齢化がさらに負担になります。これらを打破するには、より多くの日本企業、特に若手が起業するベンチャーが世界に出て、力をつけ、日本を引っ張っていくことが求められます。
そのために海外でのIPOを進めていきたいです。私自身が海外でIPOをして資金とネットワークを手に入れ、後に続く起業家のためにそれを注ぎ込むつもりです。
社会保障分野での起業に成功した横井さんが「日本で日本円しか稼げない事業をする方がリスクが大きい」と言うと説得力がある。その事業を売り払い、アジア諸国を起業家目線で視察。その彼が選んだのがカンボジアだ。ミャンマーでもベトナムでもない。そして開始する事業は全く異分野である飲食業だ。
カンボジアは、小さいゆえにライバルが目を付けない。だからこそ、チャンスがあると言う。新設された証取への上場を目指すと言う。その後、その資金を持って大きく羽ばたくことに期待したい。
後に続く起業家を支援したいとも語る横井さん。このたび、事業パートナーを募集したところ、東大卒のコンサルタント、神戸大卒で一部上場企業に勤務するビジネスパーソン、元プロ格闘家、米大学院に勤める日本人研究者らが手を挙げていると言う。面接はカンボジアで行う。カンボジアまで自費で来るように依頼した。そんな条件であるにもかかわらず、これだけの人材が応募してきた。日本も捨てたものではない気がする。
カンボジアで彼らがどう奮闘するのか。今後も注目していきたい。
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