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新教育課程 中学校でも「遅れ」に注意を: 教育ジャーナリスト渡辺敦司

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新教育課程 中学校でも「遅れ」に注意を: 教育ジャーナリスト渡辺敦司

 中学校でも新教育課程が全面実施となった。新しい教科書が配られ、驚いたのは生徒より教員の方かもしれない。生徒は既に小学校で昨年度「厚くなった教科書」を経験済みなのに対して、多くの中学校教員にとっては初めてだからだ。

 中学校教科書のページ数は全教科平均で前年度に比べ26%増加しており、小学校の23%増をも上回っている。とりわけ理科は補助教材分が吸収されたとはいえ、45%増にもなる。数学も34%増だ。

 もちろん、学習内容が26%増えたということではない。全面実施に際して文部科学省が6日付で出した通知でも「時数の増加の程度ほどに指導内容は増加していない」と断言している。授業時数が増えたのは、知識・技能の習得だけでなく「活用」の学習活動を充実させるためでもある。教科書が厚くなったのは、その反映だ。

 ただ、そのことを軽視してはいけない。

 一足先に全面実施を迎えた小学校がいい例だ。ベネッセ教育研究開発センターの調査によると、昨年1学期の段階で国語で4割、理科で3割近い学校に授業進度の遅れがあった。主な理由は「学習内容や教科書の分量が多い」とともに「児童間の学力差が大きい」だった。にもかかわらず、遅れへの対応としては「全体的に授業の進度を速める」が両教科で約7割を占めた。とりわけ若手教員は単元に重点を置くことができず、進度を速めることに頼りがちになっている。

 初年度が終了した段階で、最終的にはつじつまが合ったことも考えられる。国語などでは新しい教材が取り入れられた教科書もあり、教材研究の時間が十分でなかったという事情もある。ただ試行錯誤の結果、児童にとって十分な理解に至らなかった可能性は大いにある。同センターのヒアリングによると、2学期以降も遅れが取り戻せなかった学校があったという。この点、17日に行われる全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果が注目される。

 小学校から得られる教訓は、2つある。一つは、同じように進度の遅れを生じさせないことだ。厚くなった教科書をページごと丁寧に扱おうとしては、とても時間が間に合わない。文科省も先の通知で「まとめ方などを工夫したり、内容の重要度や生徒の学習の実態に応じてその取扱いに軽重を加えたり」することを求めている。特に若手教員は軽重の付け方が分からないだろうから、教科・学年間で授業の進め方を念入りに調整・相談しておく必要がある。

 一段落ついたら今一度、言語活動も含めた授業の在り方について教科ないしは学校全体で校内研修を実施すべきだろう。こう言っては失礼だが、新指導要領に対応した授業改善に関しては中学校以上に熱心だった小学校でさえ、このような混乱ぶりである。本当に中学校は大丈夫なのか、改めて検証しなければなるまい。

 もう一つの教訓は、実はもっと深刻かもしれない。消化不良のまま小学校を卒業してくる生徒の学力向上に、今から備えなければならないことだ。

 小学校での進度の遅れは、必ずしも初年度の特殊事情とは限らない。小学校では2学年持ち上がりであることが多く、一つ上の学年でも教員にとっては依然「新しい教科書」であるため、混乱は今年度にも引き継がれる。ヒアリングでも「担任が一通りの学年を経験し終わるまで落ち着かないかもしれない」との声があったという。また、社会での遅れが生じているは全体の2割だが、3校に1校では5年生に遅れがみられた。同センターでは歴史分野が6年生にずれ込むことで、公民分野にしわ寄せが来ることに懸念を示していた。社会に限った話ではないことは、言うまでもない。

 新指導要領は学習内容の着実な定着を目指すため、前の学年や学校の内容を「スパイラル(反復)」で学習させることも求めている。しかし早過ぎる授業で定着が不十分なまま中学校に入った生徒に、さらに早過ぎる授業を課しては「落ちこぼれ」をますます増やすだけだ。いわゆる「ゆとり教育」の見直しで小学校卒業生の学力は向上するだろうと高をくくっていては、大変なことになる。 

 こうした混乱は、必ずしも教員や学校のせいばかりとは言えないだろう。これも後で論じよう。ただ、愚痴を言っても授業は待ってくれない。健康に留意しつつも、何とか可能な限り理想的な授業を追求していただきたい。





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